量子エンタングルメント
1つの量子において同時に2つの物理量を決めることはできない。位置と運動量の関係でいえば、位置が決まれば運動量は決まらず、
運動量が決まれば位置は決まらない。これは不確定性原理によるものである。
一方、2つの量子においては、2つの量子にまたがる2つの物理量を同時に決めることができる。2つの物理量として、例えば2量子間
における相対位置と合計運動量が該当するが、これは不確定性原理に矛盾しない。
不確定性原理より
$[\hat{x}_A,\hat{p}_A]=[\hat{x}_B,\hat{p}_B]=iℏ$
よって
$[\hat{x}_A-\hat{x}_B,\hat{p}_A+\hat{p}_B]=[\hat{x}_A,\hat{p}_A]-[\hat{x}_B,\hat{p}_B]+[\hat{x}_A,\hat{p}_B]-[\hat{x}_B,\hat{p}_A]=0$
この例として、一つの量子が分列して二つの量子になる場合があげられる。
下図のように運動中の量子が分裂すると、エネルギー保存則により、分裂後の量子の$y$方向の運動量$p_A$と$p_B$の絶対値が等しく向きが
反対(和が0)、及び分裂後の量子の$x$方向の位置$x_A$と$x_B$が同位置(差が0)となるように運動を続ける。
この場合、$x_A-x_B=p_A+p_B=0$であり、各量子の位置と運動量は同時に決められないが、二つの量子の相対位置と運動量
の和は同時に決めることができる状態である。
これは、量子$A$の位置$(x_A)$がわかれば量子$B$の位置$(x_B)$もわかり、量子$A$の運動量$(p_A)$がわかれば量子$B$の運動量$(p_B)$もわかる、
つまり片方の量子の測定の影響がもう片方の量子に及ぶという相関関係(EPR相関)にあり、この状態を量子エンタングルメント状態
という。
これを式で表すと
$\displaystyle\int{dx\,\ket{x}_A\otimes\ket{x}_B}$ 及び $\displaystyle\int{dp\,\ket{p}_A\otimes\ket{-p}_B}$
となるが、この二つの式は式変形により等価であることがわかる。
$\displaystyle\int{dx\,\ket{x}_A\otimes\ket{x}_B}=\displaystyle\int{dx}\int{dp_A}\ket{p_A}_{AA}\braket{p_A|x}_A\otimes\int{dp_B}\ket{p_B}_{BB}\braket{p_B|x}_B$
$\displaystyle\biggr( \hat{I}=\int{dp}\,\ket{p}\bra{p} \biggl)$
$=\displaystyle\int{dx}\int{dp_A}\frac{1}{\sqrt{2πℏ}}e^{-\frac{i}{ℏ}xp_A}\ket{p_A}_A\otimes\int{dp_B}\frac{1}{\sqrt{2πℏ}}e^{-\frac{i}{ℏ}xp_B}\ket{p_B}_B$
$\displaystyle\biggr( \braket{x|p}=\frac{1}{\sqrt{2πℏ}}e^{\frac{i}{ℏ}xp} \biggl)^※$
$=\displaystyle\int\int{dp_Adp_B}\frac{1}{2πℏ}\int{dx}\,e^{-\frac{i}{ℏ}x(p_A+p_B)}\ket{p_A}_A\otimes\ket{p_B}_B$
$=\displaystyle\int\int{dp_Adp_B}\,δ(p_A+p_B)\ket{p_A}_A\otimes\ket{p_B}_B$
$\displaystyle\biggr( δ(p_A-p_B)=\frac{1}{2π}\int{dx}\,e^{±i(p_A-p_B)x} \biggl)$
$=\displaystyle\int{dp_A}\ket{p_A}_A\otimes\ket{-p_A}_B$
$=\displaystyle\int{dp}\,\ket{p}_A\otimes\ket{-p}_B$
$\displaystyle\biggr( ^※\,\ket{p}=\frac{1}{\sqrt{2πℏ}}e^{\frac{i}{ℏ}xp}$ , $\ket{x}=δ(x^´-x) $
$\displaystyle∴\braket{x|p}=\frac{1}{\sqrt{2πℏ}}\int{dx^´δ(x^´-x)}e^{\frac{i}{ℏ}xp}=\frac{1}{\sqrt{2πℏ}}e^{\frac{i}{ℏ}xp} \biggl)$
光による量子エンタングルメント
純粋に量子力学的な状態は状態ベクトルで記述し、真空場(光子数0の状態)を$\ket{0}$、単一光子状態(光子数1の状態)を$\ket{1}$で記述する。
二つの光ビーム$A$、$B$に対して、$AB$とも光子数0の状態と、$AB$とも光子数1の状態の重ね合わせ状態を次式で表す。
$\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}_A\ket{0}_B+\ket{1}_A\ket{1}_B)$
一方この式は、光ビーム$A$、$B$において、$A$が光子数0なら$B$も光子数0、$A$が光子数1なら$B$も光子数1が観測されるという光ビーム
$A$、$B$の相関関係を表していることから、光量子のエンタングル状態を表現する式でもある。
さらにこの式は次のように式変形できる。
$\displaystyle\frac{1}{2\sqrt{2}}\biggr[(\ket{0}_A+\ket{1}_A)(\ket{0}_B+\ket{1}_B)+(\ket{0}_A-\ket{1}_A)(\ket{0}_B-\ket{1}_B)\biggl]$
これは二つの光ビーム$A$、$B$に対して、$A\,B$とも光子数0と1をプラスで重ね合わせた状態と$A\,B$とも光子数0と1をマイナスで重ね
合わせた状態の重ね合わせ状態である。
つまり、光ビーム$A$が光子数0と1をプラスで重ね合わせた状態なら光ビーム$B$も光子数0と1をプラスで重ね合わせた状態であり、
光ビーム$A$が光子数0と1をマイナスで重ね合わせた状態なら光ビーム$B$も光子数0と1をマイナスで重ね合わせた状態となっている。
このように量子エンタングル状態においては式変形後の式においても、二つの光ビーム$A$、$B$において相関関係が保存されている
ことがわかる。
この式変形は、変形前後で観測値を$\ket{0}$、$\ket{1}$から$\ket{0}+\ket{1}$、$\ket{0}-\ket{1}$へ変えることによる観測者の視点変更を表現しており、この
式変形が光ビームの状態変化を伴うものではない。